~人々の思いを結ぶ長崎の教会~ 世界遺産認定申請までの道のり

奇跡の街、長崎の今昔:南蛮貿易港として栄え、華やかなキリスト教文化が花開いた長崎。禁教期を経て明治以降、咲くのを待っていた花々がほころぶように建てられた教会群が醸成する景観は、キリスト教文化の影響を受けた土地ならではの異国情緒とそこに寄せた人々の思いに満ちています。現在、世界遺産暫定登録されている長崎。なぜ世界遺産に値するのか、そしてなぜ多くの人が長崎を訪れるのか。その答えは長崎の今昔にあります。答えの一つ、長崎の教会の歴史的背景と見どころを巡ってみましょう。

第1章「伝来、弾圧、そして復活。心の灯をつないだ遥かなる道」

長崎の教会はなぜこんなにも人の心を惹きつけるのでしょうか。
ここには誰もが感動する"美"が凝縮されています。心を洗うようなその美は何に由来するのでしょう。一つひとつの美を確かめていく巡礼にも似た旅。
発見と感動と癒しと…その先にある深い充足感と喜び、感謝の思いが、
旅する人をより豊かに満たすことでしょう。

教会見学時マナーについては、こちらをご覧ください

ミサの風景

ミサの風景

大浦天主堂 (国宝)

創建当初は三廊式の小さな教会だったが、改築工事の結果、1875年、県内で唯一の5廊式の教会となった。正面中央の八角形の尖塔が印象的な美しい教会。
わが国初の洋風建築物としても一見の価値があるが、信徒発見の奇跡が起きた場所として、長崎のキリスト教関連施設の中でも象徴的な存在である。

(所在地)
長崎市南山手町5−3 (問い合わせ)095-823-2628
(アクセス)
JR長崎駅前から路面電車[正覚寺行乗車、築町乗換え、石橋 行乗車]利用20分、
大浦天主堂下下車、徒歩5分

出津 (しつ) 教会堂

日本のカトリックの母郷、弾圧を逃れて隠れキリシタンが潜んだ外海のシンボルとして名高い教会。この地に赴任したド・ロ神父によって設計・指導、1882年最初の聖堂が建てられた。現存するレンガ造りの天主堂としては大浦天主堂に次ぐ二番目の古さ。瓦ぶきの屋根と漆喰塗の外壁、堂内は白壁と木の占める簡素な空間が広がっている。

(所在地)
長崎市西出津町2633
(問い合わせ)
095-823-7650(長崎の教会群インフォメーションセンター)
(アクセス)
JR長崎駅前から長崎バス「板の浦」(桜の里経由)行きに乗り、「出津文化村」で下車。
徒歩15分

大野教会堂

出津教会の巡回教会堂。大野周辺の高齢者のためにド・ロ神父が私財を投じて建設した。カトリックに復帰しない潜伏キリシタンが多かったために奥まった佇まいがある。現在は信徒数が減ったため使用されていないが、記念のミサが年に一度行われている。慎ましい民家造りながら、屋根瓦の先の小さな十字架、石と土を混ぜたド・ロ壁、玄関前の風よけなど建築的にも注目されている。

(所在地)
長崎市下大野町2624
(問い合わせ)
095-823-7650(長崎の教会群インフォメーションセンター)
(アクセス)
JR長崎駅前から大野まで長崎バス(約1時間10分)、徒歩約10分。出津教会堂の最寄りのバス停である出津文化村から大野まで長崎バス(約4分)
大野教会堂

長崎、教会の魅力 (1) 目で見る美のかたち

馬込教会(沖ノ島教会)

教会の魅力は、祈りの場所として必要な機能・装飾など共通の要素を持ちながら、各教会が独自の建築法や個性を持っていることにあります。
絵、彫刻、木工などなど…教会は総合芸術の空間といっても過言ではありません。
一つひとつの美を発見していく面白さ、鑑賞する楽しさを味わうのも、長崎という"美術館"の旅ならでは。

馬込教会(沖ノ島教会)

見どころ① 天井

リブ・ヴォールトとも呼ばれるアーチ状(板張り4分割)の天井で、蝙蝠(こうもり)が羽を広げた時の形に似ていることから蝙蝠天井とも呼ばれています。しかも天井の木目はすべて刷毛目手法による手描き。刷毛で丹念に描かれた木目は高級感と温かさが同居しており、優しい祈りの空間を創り上げています。大浦天主堂の天井もこの蝙蝠天井。空間を天に導くような壮麗さは息を飲むほど。他には船底ともいわれる折り上げ天井や頭ヶ島教会だけに見られるハンマー・ビーム天井などがあります。

大浦天主堂の天井

大浦天主堂の天井

見どころ② 尖塔

教会的景観の筆頭は尖塔といっても過言ではありません。天に向かって祈るような、決意を示すような尖塔は遠くから見ても感動的ですね。高さも大きさも形も教会それぞれに異なり、海辺に建つ場合、丘の上の場合など自然環境を配慮して作られているのが分かります。中でも大浦天主堂の正面中央、八角形の尖塔は荘厳かつ華やかで長崎の街のシンボルといえるでしょう。

中町教会

中町教会

大野教会のド・ロ壁

大野教会のド・ロ壁

レンガ、漆喰、板壁。日本の初期の教会群の壁は様々ですが、大野教会の最大の特徴は教会を設計したド・ロ神父による世界で唯一のド・ロ壁。土地の赤土を水に溶かした濁液に石灰と砂をこねあわせ接着剤とし、それまでの石積工法をより丈夫に。地元の自然石で作っただけに地域色に優れ、色合いもどこか南欧風。素朴で温かな壁が大野教会の魅力を増しています。

黒崎教会のマリア像

黒崎教会のマリア像

各教会に必ずあるマリア像にもそれぞれの物語が語り継がれてきました。創建当初、フランス寺と呼ばれていた大浦天主堂には堂内にフランスから到来したマリア様が。信徒発見の際に、隠れキリシタンだった女性が「マリア様はどこ」と訊ねた「サンタマリアの御像」をはじめ、入口の白いマリア像「日本乃聖母」もフランスから贈られたもの。日本での信徒発見を記念して寄贈されただけに、ふんわりとした日本的な顔立ちのマリア様です。

大浦天主堂のステンドグラス

大浦天主堂のステンドグラス

教会の内外を彩るステンドグラス。ステンドグラスは色や形が同じでも、製法上同じものは作れず、すべてがこの世で唯一のもの。その一枚一枚に各天主堂の物語が刻まれており、教会独自の空間を醸成しています。また、光の透過によっても色や明るさが違い、朝、昼、夕方と時間ごとの美しさを見ることができます。ちなみに大浦天主堂の荘厳にして華麗なステンドグラスは時代ごとに修復されたものを合わせて3種類が混在。

長崎、教会の魅力 (2) 聴くことで知る荘厳の意味

街を歩いていて教会の前を通りかかり、流れてきた讃美歌、またはパイプオルガンの響き、鐘の音などに思わず足を止めたことはありませんか。まさに心が洗われるような一瞬であり、荘厳な気持ちに姿勢を正す方もいらっしゃるのでは。教会には魂に響く音が溢れています。空間と一体になったその響きは祈りそのもの、聴きに行ってみませんか。

神ノ島教会

神ノ島教会

聴きどころ① 鐘

時刻を告げ、祈りの時を知らせる教会の鐘の音。大浦天主堂の聖鐘は青銅製の朝顔型。創設以来休むことなく美しい音色を響かせています。結婚式の鐘の音、葬送の鐘の音…人生の節目にも鐘はなります。教会の鐘を聴きながらこれまでの来し方に想いを馳せてみてはいかがでしょう。

大浦天主堂の鐘

大浦天主堂の鐘

聴きどころ② 賛美歌

ミサに歌われる讃美歌は祈りそのものであり、クリスチャンでなくても敬虔な気持ちになりますね。聖書がまだまだ難しいという方にも、賛美歌の歌詞は心に優しく浸みてくるような気がします。ミサは信徒以外には参列できませんが、教会によってはゴスペルコンサートを催して一般の方々に聴いてもらう機会を設けているようです。ちなみに禁教時代は大きな声でキリシタンの歌は歌えませんでした。そんなことを想いつつ、歌う喜び・聴く喜びに癒されてみませんか。

ミサの風景

ミサの風景

聴きどころ③ パイプオルガン

パイプオルガンの荘厳な響きも教会の魅力の一つですね。聖堂内の状況によっては、その響きに天の啓示を感じた、全身が震えた、体中の細胞が澄み切っていったなど感動の振幅も様々なようです。出津(しつ)教会堂の関連施設である旧出津救助院ではド・ロ神父がフランスから取り寄せたオルガンで讃美歌を歌ったそうですが、その声は出津の村中に新しい時代を告げて響いたことでしょう。そのオルガンは現在も旧出津救助院の2階に置かれ、見学者にはシスターが弾いてくれるそうです。

キリスト教系私学にもパイプオルガンが設置されることが多い

キリスト教系私学にもパイプオルガンが設置されることが多い

巡礼の道を辿って行きたい~各地の教会群

長崎県と天草市には、合わせて12の「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」があります。伝来と弾圧と潜伏と復活の道のりを年代ごと、場所ごとに辿ってみてはいかがでしょう。すべての史跡が心の中で一枚の地図となって立ち上がる時、きっと大きな感動に満たされることでしょう。

【長崎エリア】

大浦天主堂と関連施設(長崎市南山手町)

大浦天主堂と関連施設(長崎市南山手町)

現存する最古の教会として国宝に指定されている大浦天主堂は、ゴシック様式の建物。 信仰を守り伝えてきた浦上キリシタンが、250年の時を経てプチジャン神父に信仰を告白した「信徒発見」の歴史的舞台である。

出津(しつ)教会堂と関連施設(長崎市西出津町)

出津しつ教会堂と関連施設(長崎市西出津町)

外海一帯は潜伏キリシタンが多く居住し、組織的に信仰を守った。出津教会堂は解禁後にド・ロ神父の設計・指導により建てられた教会で、旧出津救助院と共に、これらが立地する小田平(こだびら)集落一帯が世界遺産候補「出津教会堂と関連遺跡」である。

大野教会堂(長崎市下大野町)

大野教会堂(長崎市下大野町)

ド・ロ神父の設計・指導。1893 年竣工。平屋建、瓦葺きの教会で、当地の玄武岩を漆喰モルタルで固めた「ド・ロ壁」が特徴。

【平戸・佐世保エリア】

平戸島の聖地と集落(平戸市)

平戸の聖地と集落(春日集落と安満岳)
平戸の聖地と集落(中江ノ島)

ザビエルが1550年に布教して以降キリスト教が盛んだったが、16世紀末からの禁教政策のため、キリシタンは潜伏を強いられ、教会堂の代わりに、先祖の殉教地や平戸島の安満岳、また平戸島の北西岸にある中江ノ島などが聖地とされ、これらの聖地は今なお崇敬されており、禁教時代の独特の景観をとどめている。

黒島天主堂(佐世保市黒島町)

黒島天主堂(佐世保市黒島町)

潜伏キリシタンが多く移住していた黒島天主堂に建てられた、様式美あふれる教会。1902年竣工。煉瓦造および木造、切妻造、瓦葺きの三廊式バシリカ型教会堂で、素材には有田焼きも使われている。

【五島エリア】

旧五輪教会堂(五島市蕨町)

旧五輪教会堂(五島市蕨町)

キリシタン禁制解除に伴い、明治14(1881)年に浜脇教会として久賀島内の浜脇の地に建てられ、その後昭和6 (1931)年 に現在地に移築された。外観は木造瓦葺平屋建、内部はゴシック様式。

野崎島の野首・舟盛り集落跡(北松浦郡小値賀町野崎郷東平)

野崎島の野首・舟盛り集落跡(北松浦郡小値賀町野崎郷東平)

過疎化が進み、1971年に無人島になった野崎島には、野首と舟森という2つのキリシタン集落があった。 旧野首教会は、1908年竣工、設計・施工にあたった鉄川与助にとって最初の煉瓦造教会。

頭ヶ島天主堂(新上五島町友住郷頭ヶ島)

頭ヶ島天主堂(新上五島町友住郷頭ヶ島)

1919年竣工、鉄川与助の設計施工。地元の石を使った石造の教会。 内部も天井にハンマービーム架構を用いるなど、日本の教会堂建築として異色である。創建時のまま保存されており、現在も教会として使用されている。

江上天主堂(五島市奈留島)

江上天主堂(五島市奈留島)

洗礼を受けても聖堂を持たず家でミサを捧げていた江上の人のために、鉄川与助の設計で建設された。1918年竣工。海岸沿いの辺地、緑豊かな土地に建つリブ・ヴォールト天井やロマネスク風の窓がある木造教会は、素朴ながら清らかな雰囲気。

【島原・熊本エリア】

原城跡(南島原市南有馬町大江)

原城跡(南島原市南有馬町大江)

「島原の乱」の舞台。 島原・天草一揆軍3万7千人のキシリタンの遺体が、廃墟となった原城に埋められた。平成12年からの長期発掘調査では、人骨や十字架、花十字紋瓦が出土されている。

天草の崎津集落(熊本県天草市河浦町崎津)

天草の崎津集落(熊本県天草市河浦町崎津)

島原・天草の乱の後、長崎で使用された踏み絵を用いて庄屋役宅で絵踏みが行われが、 崎津集落の住民の多くは 潜伏キリシタンとして信仰を守り伝えた。庄屋屋敷跡に、現在の崎津教会が建てられた。

復活そして人と人を結ぶ繁栄の長崎へ

禁教が解かれ、信仰の自由を取り戻した長崎はその後のキリスト教文化の発展と成熟によって多くの人を魅了する都市として歩み続けています。並行して、原爆投下も含め、なぜ長崎が悲劇の街として歩まなければならなかったのか、それを克服してくる中でいかに信仰の力が大きかったかを歴史的に検証する試みがなされています。
約400年前に確かに存在した小ローマ、長崎。その痕跡も続々と発掘されています。独自の歩みで蘇った長崎のキリスト教文化遺産を日本の宝とし、世界に広く知ってもらうためにも、長崎にぜひ来ていただきたいと思います。長崎には今日も希望の灯が燃えています!

大浦天主堂から長崎港を望む

大浦天主堂から長崎港を望む

復活そして人と人を結ぶ繁栄の長崎へ

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」についてもっと詳しく知りたい方は、動画をご覧ください。

第1章:「伝来、弾圧、そして復活。心の灯をつないだ遥かなる道」